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のうがく図鑑



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バックナンバー(第2巻)

    新しい農業のかたちをデザインする







    霧村 雅昭 (農学部・植物生産環境科学科 助教)


     1980年代に「3K」職種という言葉が流行りました。これは、就職先として避けられた「きつい、汚い、危険」なイメージを持たれる職種のことです。実は、農業に対するイメージはさらにKが多く、「きつい、汚い、格好悪い、臭い、稼げない、結婚できない」ともいわれていました。しかし、農業は人の生活に欠かせない食料を生産・供給するといった重要な役割があります。また、古代文明が栄えたのは、農業技術の発達により食料が増産・安定供給されたことで、労力や時間を食料調達以外に割けられるようになったからだといわれています。ただ、貯蔵や輸送の技術が発達した現代の日本では、輸入への依存度は高く、食料自給率の低下や農業就業人口の減少が問題になっています。現状のままでは、もし食料輸入先の不作などのトラブルで輸入量が激減してしまうと、国内の食料が不足・高騰するなど、大きな混乱が予想されます。そのため、食料自給率の向上は国家安全保障の観点からも重要で、農業の活性化を目的とした、農業の新3K「格好良い(=プライドを持てる)、感動する(=収穫を喜べる)、稼げる」を目指す動きもあります。それらを実現するためには、さらなる農業技術の発達と新しい農業のかたちをデザインすることが必要です。
     これまでの農業のかたちには、古き良き世界農業遺産、トラクターや田植機などの機械で省力化が図られた露地栽培、さらに温室や暖房器具などを使って栽培に適した環境を作る施設園芸などがあります。世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた農業上の土地利用、伝統的な農業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農業システムで、国連食糧農業機関(FAO)が認定したものです。世界農業遺産は経験や工夫によって高度化された農業のかたちであり、2015年に認定された宮崎県高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システムの他、水路の蓄熱効果を活用した防霜技術により高冷地でのイモ栽培を可能としたアンデス農業、中国でおこなわれている一石三鳥の水田養魚養鴨などがあります。ただし、それらの農法は特定地域の環境や文化に最適化された限定的かつ自給的なものが多く、現代社会において広く普及させることや経済的に持続することは困難で、現在社会に対応した農業のかたちが求められています。
     このテーマについて、多くの研究者が取り組んでいますが、私は農学と工学を組み合わせた施設園芸学を中心に、①植物栽培システム(植物工場)や②営農型発電、③資源循環型農業など、環境保全(Environmental Protection)、持続的経済発展(Sustainable Economic Growth)、エネルギー安全保障(Energy Security)の3Eを同時に実現する次世代の世界農業遺産を目指した研究をしていますので、少しだけご紹介します。

     ①植物工場は農作物の栽培期間の短縮や高品質化を目的として、蛍光灯やLEDなどの人工光源、気温や湿度を制御するヒートポンプや超音波加湿器などの空調設備を活用し、野菜や果物を安全・安心・安定的に、短期間で大量生産できる工場的な農業システムです。例えば、レタスは種を播いてから30日以内に、イチゴは一年中収穫できます。また、温室などと違って,建物に隙間がないので,エアーシャワーなどで出入り口からの害虫の侵入を防いだり,使用する道具を事前に滅菌したりすることで農薬を使わずに栽培できるなど、一般的な施設栽培ではできないことが可能です。ただ、露地栽培などに比べると多くのエネルギーを必要としますので費用対効果を考えなければなりません。このような技術は砂漠や極地などの耕作不適地や火星への有人探査で必要な宇宙農業の技術として期待され、アメリカ航空宇宙局(NASA)でも研究が進められています。

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    LED光源で栽培しているコマツナとイチゴの様子
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    LED光源で育てたイチゴ
    LED光源下で見たイチゴの花

     ②営農型発電(ソーラーシェアリング)システムは、農地の上空に設置した太陽光発電設備で発電し、地上では農作物を生産するハイブリッドな農業システムです。発電した電気を売ることで売電収入が得られ、農家所得の向上が期待できます。さらに、宮崎の夏は日差しが強すぎるために野菜の栽培が困難ですが、このシステムを活用して過剰な日射を遮ることで栽培が可能となります。これは世界農業遺産にも登録されているタンザニアのアグロフォレストリー(混農林業または農林業複合経営ともいう.農業と林業を組み合わせて持続可能性に配慮して森林を利用すること)システムに似ています。それは限られた農地の中で生産効率を最大限に高めるため、一番上に日陰をもたらす樹木、次いでバナナ、コーヒー、野菜などを栽培し、太陽光を多段階(カスケード)利用する農業システムです。

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    営農型発電設備下での耕耘作業
    冬季の野菜栽培の様子
    夏季の野菜栽培の様子

     ③資源循環型農業システムは、焼酎粕や家畜の排泄物などをバイオガスプラントでメタン発酵等の処理をすることで、これまでの堆肥化や下水処理の過程で利用されずに捨てられたエネルギーとミネラルを回収し、メタン発酵で発生したメタンガスを燃料、発酵後に残った消化液(廃液)を肥料として活用する農業システムです。

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    メタン発酵処理前の焼酎粕
    メタン発酵処理後の焼酎粕(消化液)
    資源循環型農業システム宮崎モデル

     これまでに紹介した他にも、化石燃料の代替を目的とした遺伝子組換え技術を使った植物油の生産や情報技術を使った自動運転トラクターに代表される無人農機など、様々な研究が進められています。将来は、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)やAR(Augmented Reality、拡張現実)、AI(Artificial Intelligence、人工知能)などの科学技術の発達により、全ての産業で電化や自動化が進み、人類は単純作業や肉体労働から開放され、問題解決や創造的な精神労働、趣味などにより多くの時間を使えるようになるといわれています。
     みなさんであれば、どのような農業のかたちをデザインしますか?




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