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のうがく図鑑



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バックナンバー(第4巻)

    体内時計とスポーツ観戦と私







    榊原 啓之 (農学部・応用生物科学科 教授)



     大学は、世間でいうところのブラック企業といわれても仕方ないぐらいの職場環境らしいです(まえがき参照)。そんな中でも先生たちが文句の1つも言わないのは、やりたいこと(研究)ができるかららしいです(まえがき参照)。う~ん、確かにその通りかもしれません。今、「君の研究テーマはこれね」と強制されたら、さすがに逃げ出してしまうかも。それぐらいに、大学の先生にとって研究は大切なものです(これは私の意見)。第4巻では、応用生物科学科の先陣を切って、私が日々楽しく行っている研究テーマの一つについてご紹介したいと思います。

     スポーツ観戦が趣味の私にとって、今年の夏は厳しい戦いを強いられました。7月末のロジャーズ・カップ(テニス)に始まって、リオデジャネイロ五輪、現在は全米オープンテニス...特にオリンピックの開催期間中は、テレビにかじりついて体操や柔道の選手たちの応援をしました。そうすると、本来寝ているはずの夜中に起きていることになるわけです。しかしながら、毎日の仕事が減るわけではありませんので、応援を続けますと睡眠時間の収支が破綻してきます。2-3日ですと、そこまで苦痛は感じませんが、なにせオリンピックは17日間も続くわけですから、とあるところで夕方に猛烈な睡魔に襲われることになります。この時、睡魔に負けて眠ってしまいますと、本来、眠りに入る時間帯で目が覚めてしまうでしょう。このように、普段とは異なった不規則な生活を続けていると、私たちの身体の中で刻まれているリズムがくるってしまいます。

     と言いますのも、私たちの身体の中には、いたるところに〝時計〟が存在していて、それぞれの時計が一定のリズムを刻んでいます。面白いことに、体内に存在している時計(以下、体内時計)は正確に1日の時間を刻んでいません。具体的には、体内時計が刻んでいるリズムは、24時間よりも若干長め、かつそれぞれの時計で若干の誤差があります。そうすると、誰か指揮する人がいないと、身体のいたるところに存在している体内時計はみんなバラバラに動き出すことになってしまいます(図1-A)。例えるならば、日本では朝の7時でも、ブラジルでは夜の19時のような感じです。でも、一人の身体の中で、このような時差があると不都合が生じますよね。だって、頭は朝で活動しようとしているのに、足先はまだ夜中だからって動いてくれなかったら出歩けませんから。だから、体内時計は指揮する人(場所)が決まっています。それは脳にある視交叉上核という場所に存在している時計(中枢時計)で、24時間よりも若干長めの1日のリズムが朝の光を浴びるとリセットされて、正確に24時間に補正されています。その後、中枢時計から身体の各臓器に存在している時計(末梢時計)に、「はい、今、時計をリセットしてくださいよ~」との指令を出して時間の調節(同調)を行っています(図1-B)。



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    図1(A・B)

     だから私は、オリンピック観戦等で明け方まで起きていたとしても、必ず朝日を浴びて通勤することにしています。なぜかというと、もちろん「仕事があるから」ですが、それに加えて、体内時計が刻んでいるリズムがリセットされない状態が続くと、うつ病などの精神疾患、近年ではある種のがんなどの発症リスクが高まる可能性が示唆されているからです。嘘みたいな話ですが、いろいろな病気から身体を守るためには、体内時計を狂わせるような不規則な生活をしないことも重要なのです。

     ものすごい長い前ふりになりました。私の研究課題について、最後に少し触れておきましょう。近年の研究で、朝の光以外にも体内時計をリセットできる要因があることが分かってきました。それは食事です。それも朝食。ただ、まだまだわからないことがたくさんあります。そこで私たちの研究室では、体内時計に作用できる食品成分の探索を行っています。4年後、東京五輪で多くの方が時差のある国から日本にやってきます。その時に、「この食品食べたら、時差ボケが早く治りますよ~」なんて言うことができたら、面白くないですか?





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