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のうがく図鑑



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バックナンバー(第5巻)

    海の恵みを暮らしに生かす







    林 雅弘 (農学部・海洋生物環境学科 教授)



     大学という組織の中では時々、誠に不思議な事が起こる。この「のうがく図鑑」も第5巻を迎えたが、第1巻の香川学部長に引き続きなぜかまた海洋生物環境学科に原稿依頼が来た。農学部には6学科あるので、次は第7巻だとたかをくくっていたのですが。。。。

     さて、海洋生物環境学科では魚やサンゴ、オニヒトデ、エビ、微生物など様々な研究材料を扱っています。なかでも我々の研究室は「海の恵みを暮らしに生かす」をキャッチフレーズに、天然海から新しい有用な微生物を探索してきて、医薬やサプリメント、水産飼料、バイオ燃料やバイオプラスチックなど、様々な形で我々の生活に役立つ「ものづくり」を研究しています。
     いわゆる「微生物ハンター」のごとく、広大な海から有用な微生物を探し出すには、波打ち際で海水や砂、サンゴ片、流木、落葉などを採集することもあれば,調査船から採水器を使って採水することもあります。さらに目的によっては水深数m~50 mの海底で潜水作業により採集することもあります。そのため私の研究室では、スタッフと多くの学生は潜水士免許を取得し,潜水業務に必要なスキューバ潜水のスキルを身につけています。講義にも「マリンダイビング論」という科目があり、希望者には救急救命の実技講習も行っています。このようにして海で採集した分離源から、目的の微生物を探し出し、雑菌を取り除いて純粋にして培養し、分析や遺伝子の解析を行います。

    biseibutsu
    海底に有用微生物を求めて
    shinkiseibutsu kousyuu
    海は新奇生物の宝庫です
    救急救命の実技講習

     この手の研究の重要なポイントは、①何をつくるか?(これはコストやマーケットも含めてターゲットを決めないといけないので、ビジネスマン的なセンスが必要です)、②どうやって目的の微生物を選び出すか?(これこそ研究者の真骨頂で、まさに経験と実力、そしてアイデアが問われます)、③目的の微生物はどこにいるか?(微生物探索も宝探しみたいなものなので、必ずとは言いませんが長年の経験とカン、幅広い知識や情報が問われます)。
     このようにして我々が全国から探し回っている微生物の1つに「ラビリンチュラ」と呼ばれる微生物がいます。専門家以外にはほとんど知られていない名前の単細胞の海洋微生物ですが、細胞内に多量の油を貯めるという特徴があります。特にその油の大半は「ドコサヘキサエン酸(DHA)」と呼ばれる油です。DHAという名前は聞いたことがある人も多いと思います。「魚を食べると頭が良くなる」というフレーズで有名になった、魚の油に含まれる成分です。しかし驚くべき事に、魚は自分の体内でDHAを作ることができません。海の中で植物プランクトンやラビリンチュラが作り出したDHAを動物プランクトンが食べ、それを小魚が食べ、さらにマグロやカツオが食べるという食物連鎖で魚の体内にDHAが蓄積しているのです。DHAは脳や神経、循環器系など、私たちの健康維持には重要な成分です。我々は将来、乱獲や地球温暖化などにより水産資源が枯渇しても、あるいはベジタリアンの人でも安心してDHAが摂取できるように、DHAの微生物生産などを研究しています。また、油の種類を少し変えるとラビリンチュラの油がバイオジェット燃料としても利用可能であることがわかってきました。海の中にはまだまだ未知の微生物が潜んでいます。それらを探し出して、我々の暮らしに役立てる研究のためにあちこちの海に潜って宝探しをしています。

    saibou
    ラビリンチュラの細胞
    DHA
    DHAは食物連鎖で魚体に蓄積します




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