ホーム > のうがく図鑑  第13巻「“いのち”の誕生のお手伝い 」

のうがく図鑑



のうがく図鑑


バックナンバー(第13巻)

    “いのち”の誕生のお手伝い







    北原 豪(農学部・獣医学科・准教授)



     私たちは、産業動物(牛、豚、鶏など、その生産物や労働力が私たちにとって有用となる動物のこと)からの“いのち”や“分け前”であるお肉や牛乳をいただいています。日本では、乳用牛が134万5000頭、肉用牛が247万9000頭、豚が931万3000頭、主に卵を生産する鶏が1億7334万9000羽、主に肉用となる鶏が1億3439万5000羽、それぞれ飼養されています(2016年2月現在)。しかし、1頭(羽)の動物から生産される生産物の量には限りがあるため、動物を殖やすこと(=繁殖)が必要となります。
     産業動物の繁殖の過程は、雄と雌の生殖子である精子と卵子が受精して受精卵(胚)となり、子宮で発育し、分娩を経て、新たな命が誕生することです。雌は、この繁殖の過程の中で、非常に大きな役割を果たします。牛の場合、受精卵(胚)が卵管から子宮へと移動し、受精後20日頃から子宮に着床し始め、受精後約280~290日で分娩します(写真1)。分娩した雌は、産まれた子を育てながら(牛乳を生産しながら)、分娩後すぐに次の子が妊娠できるように準備が始まるため、1年に1回のペースで子を産むことができます。私たちは、1年に1回無事に子が生まれるように、卵巣や子宮といった生殖器官のコンディションを整えたり(ヒトの医療でいう婦人科)、また妊娠から分娩までをケアしたり(ヒトの医療でいう産科)、またこれらに関わる繁殖のメカニズムの解明や医療技術の開発を行っています。

    1
       写真1 牛(黒毛和種)の発育過程。
       受精後7日の胚(A)、人工授精後22日(B)、29日(C)、36日(D)、
       43日(E)の超音波検査でみた妊娠子宮、分娩直後の母子(F)。
       矢頭は胚、矢印は子宮腔。

     産業動物の繁殖に関わる検査で、必ずと言っていいほど行われている検査の1つに、直腸検査があります(写真2)。何も知らずにその光景をみると「えっ」と思われるかもしれませんが、直腸に手を入れて、直接目に見ることができない卵巣や子宮を触診し、その状態を把握する、まさに職人技的な検査なのです。自分の手指を物差しにして、研ぎ澄まされた指先の感覚をもって、これらの形や状態を主観的に診ます。最近では、イルカやコオモリなどがコミュニケーションや自分の位置を知るために、また魚群探知機に使われている超音波を使った検査によって、同じ直腸を介した直腸検査よりもより客観的に生殖器官を診ることができるようになりました。この超音波検査の技術がさらに進歩したおかげで、牛をどこかに連れて行かなくても牛がいる場所でこの検査が行えるようになり、臨床や教育の他、研究においても利用されています。

    2
    写真2 牛の直腸検査。
    ある大型農場における超音波検査による繁殖検診の様子。左下写真は、直腸
    検査の様子。

     雌雄に関わらず、体の中では繁殖機能を調節する機構として、視床下部—下垂体—性腺軸があります。頭にある脳から遠く離れた生殖器官がどうして繋がるのか、不思議に思われるかもしれませんが、そこに大きく関わるのがホルモンと呼ばれる物質です(写真3)。繁殖に関わるホルモンは、それぞれの生殖器官の中あるいは間を体液や血液を介して運ばれ、特定の器官に対して刺激したりあるいは抑制したりする作用を有します。そこで、私たちは、雌の繁殖能力について健康診断の際に行う血液検査のようにこれらホルモンから客観的に評価できないか、またこれらホルモンを使って繁殖機能をコントロールできないか、などの研究を行っています。
     このように、私たちは、産業動物の繁殖に関わる臨床・教育・研究を通して、“いのち”の誕生のお手伝いをしています。

    3
         写真3牛の繁殖機能の調節
         視床下部—下垂体—性腺(卵巣)軸におけるホルモンを介した相互調節。
         ①は自己分泌 or 傍分泌、②内分泌。△や□はホルモン。



    このページの先頭へ