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のうがく図鑑



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バックナンバー(第15巻)

    どんな未来をお望みですか?







    多炭 雅博 (農学部・森林緑地環境科学科・教授)



    私にとって、大学での教育と研究の醍醐味は、「未知の問題に挑む」こと、そして大げさですが「未来の社会や世界を創ること」です。10代の頃はテレビゲーム、なかでもロールプレイングゲームやシュミレーションゲームに夢中でした。勇者として悪に立ち向かう「ドラゴンクエスト」にはハマりました。そのほかにも、歴史を動かす「三国志」や「Civilization」などなど、自分が世界を救ったり、動かしたりするのは快感でした。

    おっと、これは「のうがく図鑑」でしたね。教育と研究の話に戻しましょう。

    私の専門は、①農業のための気象学。雨や温度と作物との関係を調べます。②水資源管理学。農業はたくさん水を使います。どのように水を配分すべきか考えます。③リモートセンシング。人工衛星の画像を使って、農業・森林・草地・乾燥地など、地球の環境を調査します。農学部では生物や化学の知識を使う分野が多いですが、私の専門分野は地学や物理学の知識を使います。

    これら3つの専門性を合わせるとどんな研究になるのか?例を紹介します。JAXAの地球環境変動観測ミッションの枠組で取り組んでいる、世界全体の陸域からの蒸発散量推定(図1)です。気象の知識とリモートセンシング技術を組み合わせて、地表面からの水の蒸発散量を推定します。そしてその結果を水資源管理の知識を使って解釈して、健全な農業や地球環境のためにはどのような水の使い方をすればよいのか、社会に提案します。蒸発散量を推定する方法を研究するためには、図2に示すような、圃場での実験や現地調査、また研究室でのデータ解析など、地道な調査・解析も必要です。

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    図1:(左)人工衛星の画像を処理して計算した陸地からの「蒸発散量」・(右)アフリカ大陸での降水量分布と蒸発散量分布の比較

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    図2:(左)大学圃場での土壌水分実験・(中央)中国での現地土壌水分調査・(右)学生研究室でのデータ解析

    大学での教育や研究には、高校までの教科書のような「唯一の正しい答え」はありません。図1に示したような結果をもとに、専門家として現場の人や政府に何らかの提案をする場合を考えます。仮にある地域で、農業に使う水が足りず、誰かが水の利用をあきらめる必要があるとします。誰が水の利用をあきらめるべきですか?その地域の農家全員が公平に同じだけ水を使うのをあきらめて、どの畑にも水が足りずに作物を全部枯れさせるのは良い案ですか?農家同士で誰が犠牲になるか話し合いましょうか?行政や裁判所に決めてもらいましょうか?それともお金のやり取りで解決しますか?いろんなアプローチが考えられます。社会や文化によって、いろんなルールや慣習も存在します。いつでもどこにでも通用する「唯一の正しい答え」というのはありません。正しい答え、ではなく、「その状況下で一番妥当だと思われる専門家としての答え」を、自分の専門知識と技術を総動員して調べて、考え、判断し、創り出していきます。そうすることで社会がちょっとだけ、「自分の目指す方向」に動きます。では自分はどこを目指すべきなのか?自分はどのような未来を創っていきたいのか?悩みは尽きませんが、農学、楽しいですよ。

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